Life Place

心を満たす場所

北欧デンマーク編 Episode 2

リーヌ・スタンプ・ダールさんの
Life Place、訪ねました

「心を満たす居場所」を、

グリニッチでは「Life Place」と呼んでいます。

心を満たす居場所は人それぞれ、違うもの。

すてきなあの人は、いったいどのようにして、

居場所を作っているのでしょうか?

今回訪ねたのは、北欧デンマークで暮らすヒュッゲナーの

「Life Place」。

居心地が良く、心を満たす空間づくりのヒントをたくさん、いただきます。


自己紹介をお願いいたします。

ランドスケープアーキテクト(景観設計)の修士論文を提出し、大学院を卒業したばかりです。今は就職活動中です。また、サイドビジネスとして1年ほど前に、Knitwise Studioという手編みニットのプロジェクトを友人とふたりで立ち上げました。Instagram(@knitwisestudio)で手編みのニットや編み物のレシピを販売しています。夫と4歳と6歳の子どもたちの4人家族です。

ランドスケープアーキテクトとは、庭を設計するのですか?

ランドスケープアーキテクトという分野は、実はすごく幅広いんです。造園だけでなく、パブリックスペースなどの空間もデザインします。さらに規模を広げると、都市の計画や設計も行います。デンマークの大学でランドスケープアーキテクトの修士号を取るためには、主専攻の景観設計学以外にも副専攻も選ぶ必要があるのですが、私の場合はパブリックスペースについて学びました。他にも、戦略的都市計画学などのコースもあります。でも私は、建物と建物の間にある小さな空間に興味があるので、パブリックスペースを専攻したのです。

コロナウイルスの影響で生活が変わりましたか?

そうですね、子どもたちと一緒に家で遊ぶ時間がとても増えました。デンマークがロックダウンしたのは2020年の3月だったのですが、もともとその時期は自宅にこもって修士論文を書く予定でした。ですからロックダウン措置が決まった後も、計画どおり家で論文を書き続けました。でも想定外だったのは、子どもたちの学校までも休校になってしまったことです。作業ははかどったので結果はよかったのですが、子どもがずっと家にいるというのは……かなり大変でしたね(笑)。夫もリモートワークが増えたので、彼の仕事の邪魔にならないように、私は子どもたちを連れてサマーハウスに移動しました。デンマークでは多くの人がサマーハウスという別荘を持っています。コロナ禍では、サマーハウスをいつも以上に活用した人が私のまわりにも多いんですよ。

ご自宅の好きなところについて教えて下さい。

以前はすごく小さな家に住んでいたんですけど、今は引越をしてコペンハーゲン市内のアパートに住んでいます。一番気に入っているポイントは、4階に住んでいるので一日中太陽の光が差し込むこと。前の物件はそうではありませんでした。デンマークは特に秋冬の日照時間が短いので、自然光はとても貴重です。あと、各部屋が前の家よりも広いところも好きです。私が持っている家具はあまり統一感がないのですが、部屋の広さを利用して家具のテイストによってコーナーを作ることで、ごちゃごちゃした感じがなくなりました。

部屋作りで大事にしていることや、こだわりがあれば教えてください。

新しく何かインテリア用品を買う時は、クオリティにこだわるようにしています。使い捨て文化は好きではないので、上質で長く使えるものを意識して買います。たとえば木製の家具の場合は、MDFなどの合板ではなく、無垢材を選びます。あとは、家具でも照明でも、できるだけリプロダクト(復刻版)ではなくオリジナルを探します。その家具が誕生した時代のものを使いたいのです。もちろんヴィンテージなので中古ですが、それでも昔から大切に使われてきたものは、最近作られたものよりも質が良いと思います。あと、デンマークは秋冬にかけて日照時間が非常に短くなり、室内で過ごす時間が増えるので、照明にはこだわっています。リラックスできる照明と機能的な照明を使い分けて、自宅で居心地良く過ごせるように工夫しています。

家での食事についてお聞かせください。

9年前に夫のトーマスと結婚して以来、料理はずっと彼が担当しています。私は料理をするよりも食べることに興味があり、トーマスは料理が好きなので。小さい頃インドに住んでいたことが関係しているのか、彼はスパイシーな料理が得意です。インド料理やメキシコ料理などの、野菜とスパイスたっぷりの食事を家族で食べています。あと、お肉はあまり食べません。宗教上とか特別な理由はないのですが、ただ単に野菜が好きなのです。

キッチンに関するこだわりは?

トーマスは見た目よりも、機能性を重視しています。「キッチンが機能的で食材が良ければ僕は料理ができる」と彼はよく言っています。サマーハウスを購入する時も、使いやすいキッチンが備わっていることが彼の外せない条件でした。今、私たちが暮らしているアパートは歴史的建造物のため、好き勝手にリノベーションができません。ここは、デンマークの福祉国家の仕組みに関わる重要な会議が1933年に行われた有名な建物です。だからキッチンをもっと綺麗に改装したいと思っても制約があり、なかなか難しいのです。

歴史的に重要な建築物だから住みたいと思ったのですか?

歴史的な背景を重視したというよりも、コペンハーゲン市内の“新築ではない”物件を探しました。新しい建物には魂(ソウル)が感じられないので、私たちは古い建物に惹かれます。新築のアパートは、水辺に近い好立地に建てられていたり、機能的な設備が整っていたりするので、それを求める人もたくさんいます。でも私たちの場合は、たとえ古くて多少不便でも、歴史的なディテールや建築家の想いが感じられる建物に価値を置いています。新築は今後も増え続けますが、古い建物は増えてはいかないので、良い物件を探すのは簡単ではないんですよ。

家のなかにお気に入りスポットはありますか?

ひとつのスポットというよりも、家全体の日当たりの良さが気に入っています。だから太陽の動きに合わせて、家のなかのお気に入りのスポットが変わっていく感じです。家具の配置も陽光の入り方を考慮しています。野生の動物や植物のように、太陽の方を向いて生活をしています。

何からインスピレーションを得ていますか?

PinterestやInstagramはもちろん参考にしていますが、時間があるときにスクロールする程度ですね。あとは、直接人に会うことで、その人たちのスタイルやアイデアから影響を受けることが多いです。流行にはあまり興味がないので、敏感ではありません。以前うちに取材に来たデンマーク人の取材班から「あなたの家のインテリアはとてもデンマークっぽい」と言われたことがあります(笑)デンマークっぽくしようと意識したわけではないのですが……まあ、褒め言葉だと捉えています。あとは、近所の運河に朝の時間帯に泳ぎにいって、そこで考えをまとめたり、アイディアを膨らませたりすることはあります。街の空気を吸って、自分の時間を大事にしています。

暮らしにヒュッゲを取り入れるためのアドバイスをお願いします。

先ほどもお話しましたが、照明はすごく大切ですね。それ以外だとブランケットやスローなど、暖かみがある柔らかいものを部屋に置くようにしています。寒くなったら使えるので、実用性も兼ねて。あとは、季節の花を買って部屋に飾ることも大切です。自分が本当に好きなものや、自分にとって価値のあるものをいつでも眺められる場所に飾る。これもヒュッゲの要素になると思っています。

照明を選ぶ時のポイントはありますか?

基本的に、電球というか光源が直接見えないものを選んでいます。眩しくなくて、温かい光を放つような照明です。ルイス・ポールセンなどの多くのデザイナーがそういったデザインの照明を手がけていますよね。ひとつの照明にすべての機能を求めるのではなく、部屋のゾーンによって使う照明を変えます。たとえばダイニングテーブルの上には、広く光が当たるような機能的な照明が良いと思います。また、雰囲気を重視するエリアでは、柔らかな光を放つ小さなランプをたくさん置いています。その部屋やゾーンによって使い分けるのがヒュッゲにつながるポイントでしょうか。

リーヌさんが家に求めるものは?

やはり帰宅したときに、落ち着ける場所であること。もうひとつは、ひとりになれる空間と大勢で集まれる空間の両方があること。これは自分の個室を持つというわけではなく、同じ空間にいても各々が別のことをするスペースが確保できる、という意味です。まあ、臨機応変に使える空間とでも言いましょうか。デンマークでは贅沢な希望ではありますが、できるだけそういう家を探してきました。

未来の家や建物はどう変わっていくと思いますか?

ランドスケープアーキテクトの役割としては、距離感を保ちつつ、みんなで集まれる場所を作る必要があると思います。たとえばデンマークだと、アパートには通常中庭があるので、距離を置きながら多くの人が同時に楽しめます。世の中がこのような状況になってしまいとても残念なことですが、今後は距離を置けるということが重要なポイントになるでしょうね。でも同時に、人と集まりたいという欲も高まっていると思います。ですから、今後はこの仕事を通して、人々が安心して集まれる場所を作っていく必要があると思っています。