もっと知りたい、北欧デザイナー『ボーエ・モーエンセン』〜モーエンセンがわかる8つのエピソード〜

みなさん、こんにちは。グリニッチの岡田です。

北欧生まれのインテリアデザイナーを、様々な角度から深掘りして紹介するシリーズ「もっと知りたい、北欧デザイナー」。

今回はデンマークの代表的なデザイナーとして知られている、ボーエ・モーエンセンをご紹介します。

Borge Mogensen(ボーエ・モーエンセン) 1914-1972

1914年、デンマーク西部の都市オールボーに生まれ。
デンマーク王立アカデミー建築家でコーア・クリントに師事し、彼の助手としてデザインを学んで、マイスターの資格を取得します。
1942年からはFDBモブラー(デンマーク生活協同組合家具部門)の企画デザイン担当責任者として活動しました。

代表作は、「The People’s Chair(ピープルズチェア=みんなの椅子)」という愛称で長年親しまれている「J39」。
庶民のためにつくられた「極めてシンプルで無駄がないデザイン」で、デンマークのベストセラーチェアです。

1950年にFDBモブラーを退職した後は自身の事務所を構え、FDBモブラーで培ったアメリカのシェーカー教の家具をリ・デザインした直線的で力強い家具を数多く製作しています。

 

モーエンセンといえばFDBモブラー、FDBモブラーといえばグリニッチ...
ということで、グリニッチにとって欠かせない人物である彼の魅力を、たっぷり8つのエピソードでお届けしたいと思います。

モーエンセンのことがもっとわかる、8つのエピソード

①夢は「庶民のために低価格な家具をデザインすること」

「自分のデザインした家具で、デンマーク人の暮らしをより良いものにしたい。」
強い使命感を持ってデザインされた庶民のための椅子「J39」は、1947年の発売以降80万脚以上売れている大ヒット商品。
世界で最も数の多いデンマーク生まれのチェアと言われています。

一見シンプルで素朴な印象の椅子ですが、落ち着いた印象を与えるために部材の配置と面の構成に細心の注意を払ってデザイン。モーエンセンの家具づくりに対する、強いこだわりが感じられます。

例えば収納家具は、それまではなかった引き出しをつけることで、無駄をなくしました。
また、当時一般的だったふかふかしたソファ(モーエンセン曰く「肉屋のソファ」!)ではなく、椅子に緩めのクッションを敷いてソファに仕立てたることで、カバーが擦り切れても簡単に取り換えられるようにしました。

そうした庶民のための新しい家具の提案を、モーエンセンは「デンマーク人の重苦しい家具との個人的な戦争だ」と表現。
その「戦争」に勝利することで、人々により良い暮らしをもたらしたのです。

②「シンプルかつ実用的」現在のデンマーク家具の先駆け

デンマークの家具といえば「シンプルかつ機能的、実用的」というイメージの方も多いかもしれません。
でも実は、昔のデンマーク家具といえば大きくて重たくて、装飾も豪華なものが一般的でした。

戦後間もない当時、地方から都市への移住が増え、多くの人が小さくて窮屈なアパートに住んでいることに気づいたモーエンセン。
それまでの大きくて重たい家具や化粧台や食卓などは小さいアパートには置く場所がなく、困っている人がたくさんいました。
モーエンセンはそれらの家具を、皮肉を込めて「太った肉屋の家具」と表現しています(!)。

家具は日常生活に相応しく空間を有効活用できるものであり、「役に立たなければ捨ててしまおう、実用的でなければ替えてしまおう」がモーエンセンの考え。
彼にとって家具は"日常の問題を解決するもの"であったので、「シンプルかつ実用的」な家具が彼のデザインの特徴になり、それらがデンマーク人の暮らしに広く浸透することで、デンマーク家具自体の特徴にもなったのです。

③コーア・クリントの教えを大切に継承

https://tokosie.jp/interior/4456/

北欧デザインの巨匠であるコーア・クリントに師事したモーエンセン。
「家具は人体の大きさに対して適切であり、かつ機能的であるべきだ」という人間工学や、「過去のスタイルの椅子を実測することで得られた知識を、新たな椅子づくりに生かす」というリ・デザインといった、彼の教えを継承して家具をデザインします。

それが「丈夫で、使いやすくて、美しい」という、モーエンセンのデザインに一貫して見られる特徴を形成したのです。


④徹底した計測・計算

モーエンセンは家庭用収納家具ユニットをデザインする際、一般家庭にあるあらゆるもの・・例えば衣服、カトラリー、針仕事の道具、パイプ、筆記用具、折りたたんだシャツ、ハンガーのラックなど全てを、徹底的に計測。
どれくらいの長さのラックが女性は必要か?男性はどうか?と計算してデザインしました。

それは本当に気の遠くなるような作業...ですが、そうした徹底的な作業により生み出された収納家具は、全体を効率良く分割でき、家庭に合わせて様々な組み合わせが可能な、とても効率的で使いやすいものに。
システム収納家具として、デンマークのあらゆる家庭に取り付けられました。

なぜそこまでして、全てのものを計測・計算したのか...?
それは、彼自身の心が無秩序で散漫としており、外の世界に秩序を持たせることで心を落ち着かせたかったから、という説も。
秩序に対する並々ならぬこだわりが、「機能的かつ美しい」という彼独自の特徴につながったのかもしれません。

⑤人呼んで「家具の修道士」

仕事に対して常にストイックな姿勢だったモーエンセン。
その没頭ぶりは、妻から「彼から仕事を奪うと生きていけなくなる」と言われるほど。
そうしたストイックさが、たくさんの家具をデザインできた一つの理由かもしれません(しかもほとんど失敗作がないところが、モーエンセンのすごいところ)。
モーエンセン自身、自分のことを「一人の家具製作者」として見ていたそうで、自他共に認める「仕事人間」だったと言えます。

また仕事に熱心だっただけでなく、その仕事の内容はとても管理されたものだったそう。
全てにおいて慎重かつ綿密に計画されており、夜通しパーティーに出かけた日でも、翌朝早くから仕事をしていたというエピソードも。
その様子から「家具の修道士」と呼ばれていたのだとか・・

そしてモーエンセンにとって、自宅は実験室。家族で家具をテストし、実践的なやり方で家具をデザインしました。
その徹底ぶりは、「自らの実験の場を『家』と呼んだ」という彼のエピソードからも明らか。
息子のトーマス・モーエンセンの話だと、ある日家に帰ると、自分の部屋が勝手に空っぽにされていたこともあったとか...家族にとっては、居心地の良い家とは言えなかったかもしれません。

⑥デンマークの家具デザイナーとの関係性

Yチェアで有名なハンス・J・ウェグナーとは同い年で大の仲良し。
若い頃は同じアパートに住み、時に協力して商品を作ったり、競い合ったり、と公私ともに非常に親交が深かったそう。
一緒に行った旅行先でも、海にも行かず、二人で仲良く家具の実測をしていたのだとか...

一方で、ヴェルナー・パントンやアルネ・ヤコブセンとは、デザインに対する考え方の違いから対立。
アルネ・カールセンと共に『アートとクラフトの墜落』という論説を発表すると、「気取った作風、不十分なマーケティング、デザインに対する考えが浅はか」と言って、彼らを強く非難しました。


モーエンセンは、「デザインのためのデザイン」には興味を示さなかったと言います。
子供は家具の上で遊び、若者は飲み物をこぼす、年老いたものは家具と一緒に年を重ねる...そんな、人々の暮らしに自然と寄り添うような家具のデザインを、理想としていました。

⑦気さくな一面と、ちょっぴり破天荒な人柄

その気さくさから、様々なジャンルのアーティストとも親交があったモーエンセン。
「インスピレーションよりハードワークが大切だ」という考えを共有できるアーティストを、度々自宅(兼実験室)に招いたそうです。

一方、お酒を飲み過ぎて乱暴になるなど、ちょっぴり破天荒な一面も。
人生で一度だけですが、お酒を飲んで車を運転してしまい、警察に捕まって2ヶ月間刑務所に入ったこともあります。

でもさすが、どんな状況でも四六時中家具のことを考えているモーエンセン。
刑務所の中で与えられたメモと鉛筆で、刑務所の空間からインスピレーションを得たアイデアをスケッチ。
それが後に、老人ホーム用の家具として大ヒットしました。

モーエンセンと一緒に数多くの家具を生み出した、フレデリシア・ファニチャーの創業者であるアンドレアス・クラバーセンは彼について、「絶望の底からはいあがる独自の才能がある」と述べています。
気さくで破天荒、不屈の男...彼の魅力のひとつには、そんな人柄にもあるのかもしれません。

⑧贅沢品でさえも「つつましやか」

1960年代、長く続く好景気により、デンマークの人々は日用品の代わりに贅沢品を求めるようになっていきます。

人々に寄り添うものづくりをしてきたモーエンセンも、ニーズに合わせ今までとは違う「贅沢」の要素をデザインに加えます。
でもそれは、決して過剰な豪華さや派手さではなく、控えめでちょうど良い贅沢...いわば、「つつましやかな贅沢」でした。

1950年代の終わり頃、ヨーロッパではスペインが大流行。
モーエンセンも家族でスペインへ旅行し、ヘミングウェイと同じように闘牛を鑑賞したり、彼を真似て顎髭を生やしたりしました。

その旅行中に出会った、将校が座る椅子やラスコー洞窟の壁画からインスピレーションを受けてデザインしたのが、スパニッシュチェア。
アームレストの幅を広く取り、分厚い革を使用するなど、それまでのモーエンセンの家具とは少し違う「贅沢仕様」ではあるけれど、実はデザインはとてもシンプル。
2枚の革と12本のダボで成り立つわかりやすい作りで、隠している部分がなく、個々の部材も洗練されています。

贅沢ではありながら控えめで、モーエンセンらしい誠実さをしっかり感じられる。
まさに「つつましやかな贅沢」といえる1脚です。

 

モーエンセンにまつわる 8つのエピソード、いかがでしたか?
もっと詳しく知りたい・・という方には、さらにおすすめ。
モーエンセンの素顔に迫ったドキュメンタリー映画、Borge Mogensen 「DESIGN FOR LIFE」 日本語字幕 DVDもございます。

モーエンセンのデザイン哲学とは?その素顔とは?
58分にわたるドキュメンタリーは見応えたっぷりです。
ぜひ合わせて、ご覧ください。

グリニッチ 岡田

ボーエ・モーエンセン商品ページ

About

この記事をかいた人

岡田 智理

グリニッチ広報・企画担当。
インテリアコーディネーター資格、住空間収納プランナー資格を所有。
ブログや企画イベントを通して、暮らしを満たすヒントや、グリニッチが提案するさまざまな価値について、明るく楽しくお伝えしていきます。

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